【品質評価レポート】理美容はさみの切れ味試験機
- 2021.05.07
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海外製の粗悪品をmade in japanと謳ったり、勘違いするような表記で消費者を
騙して安価でネット上で販売をしている業者がいるのも事実です。
消費者が、そのことに気づくためにも、正しい情報を広げていく必要があります。
HSCでは消費者の皆様が安心してハサミを購入し、使っていただけるように、ハサミの品質の標準化に取り組んでゆきます。
その一環として、今回は「理美容はさみの切れ味試験機」参考文献を紹介いたします。
目次
理美容はさみの切れ味試験機
1.緒言
日本において,手で使用する刃物の切れ味に関する学術研究は,第二次世界大戦前の軍刀の研究が始まりと思われる.
東京帝国大学の青山は,改造したシャルピー衝撃試験機を用いて,振り子の先端に刀を取付け,被切断物への刃の進入角と切断に要するエネルギーの大きさを定量的に比較した1).
東北帝国大学の本多らは,重ねた紙の上に置いた刀の上に重りを載せ,その刀を水平に引いた時に切断される紙の枚数で切れ味を評価した.この本多式の切れ味試験機は現在でも,一枚刃の刃物の切れ味を評価する方法として最も一般的である2).
この他にも特に包丁などで切れ味に関する研究は多いが,興味深いのは大妻女子大学の岡村らの研究である.これは小さな角柱状の二色の粘土を交互に積み上げ,断面を市松模様状などにした被切断物を切断するもので,切断面に露出している元々は正方形だった粘土の,形状の変形の具合により切れ味を評価するものである.
岡村らはこの実験により,刺身を切断する際に,切断面の細胞が破壊されていない状態の方が味は良くなり,刺身包丁はその目的に合致した道具であることを実証した3).
これらの一枚刃の刃物に関する研究と比較すると,構造が複雑な,鋏に関する研究は数が少ないが,岐阜県の工業センタの竹腰が精力的な活動を行い多くの研究成果を残している4).
2.鋏の切れ味試験機
現在われわれが使用している実験装置の外観を図4に示す.本装置は,はさみをクランプするエアシリンダ,回転させるモータ,押し上げ荷重を測定するロードセル,回転角を測定するロータリエンコーダからなる.ロードセルで測定された荷重は,ひずみアンプを通して記録計に送られ記録される.記録されたデータは,パソコンにて解析することが出来る.
この装置で測定するのは、基本的に開閉時に刃を押し上げるためにかかる力と、その瞬間の鋏の開いている角度である。つまり、刃元、刃中、刃先までの力の大きさの変化がリアルタイムで測定できる。
図5に測定の一例を示す。また別途、動作時の動画1も参照頂きたい.
二つの線の下側の曲線が、刃を押し上げるための力の推移になる。グラフ上では単位はVとなっているが、今回の装置では1V=1Nなので、力は、0.1N→0.6Nへ、0.5N増加したことになる.
また、上側の角張ったグラフが、ロータリエンコーダの出力になる。ロータリエンコーダは軸の回転に伴って、出力される電圧が上下する仕組みのセンサで、つまり出力値が上下するごとに一定の角度、鋏が開閉していることを示しており、この変化の回数をカウントすることで、角度を知ることが出来る。
同じ型番の異なる鋏で開閉を繰り返すと,図6のように鋏によって荷重にばらつきが生じる(図6は横軸を開き角で整理しているので,時間の進行が逆になっているので注意).
2020年秋の第71回塑性加工連合講演会で報告したのは,このばらつきが小さい方が,鋏の噛み合わせの再現性が高いと判断できるという内容である。このように、本試験機を用いることで鋏の品質を定量的に把握することが出来る.
また本装置を使用すれば,被切断物を切断する瞬間の切断荷重の大きさを把握することも可能である。図7は過去に行った実験のデータであるが、様々な切断条件における鋏の切れ味を定量的に評価することが可能である.
また,切断の状況を高速度カメラで撮影することで,切断時の毛髪の挙動などに関しても研究の広げることが出来る.動画2をご参照頂きたい。
3.装置設計上の留意点
装置を設計する上で留意した点をいくつか挙げる.
はじめに,装置全体の剛性を充分に確保すること.今回の装置においては,本体に10mmの鉄板を使用し,またそれぞれを溶接にて接合した.これは切断時に発生する負荷の影響を避けると同時に,装置を設置した場所の不要な振動の影響を避けるためでもある.測定荷重は実際に何かを切断した場合でも,数Nと考えられるが,同様に鋏を押し上げるアーム部についても充分な剛性を与えることが望ましいと思われる.
次に,モータ周りであるが,まず回転速度については,通常ユーザが鋏を開閉する速度範囲をカバーすることが肝要である.また,鋏の開閉は大きくて90deg程度であるため,切断時のトルクを確保するために高トルクのモータを選定する必要があると考える.
参考文献
1) 青山:工業雑誌,53-685(1925),300.
2) 本多ほか:金属の研究,10-3 (1926),67.
3) 岡村ほか:家政学雑誌,28-2 (1977),115.
4) 竹腰ほか:精密工学会誌,70-10(2004),1322.
日本において,手で使用する刃物の切れ味に関する学術研究は,第二次世界大戦前の軍刀の研究が始まりと思われる.
東京帝国大学の青山は,改造したシャルピー衝撃試験機を用いて,振り子の先端に刀を取付け,被切断物への刃の進入角と切断に要するエネルギーの大きさを定量的に比較した1).
図1 シャルピー衝撃試験機を改造した青山の試験機
東北帝国大学の本多らは,重ねた紙の上に置いた刀の上に重りを載せ,その刀を水平に引いた時に切断される紙の枚数で切れ味を評価した.この本多式の切れ味試験機は現在でも,一枚刃の刃物の切れ味を評価する方法として最も一般的である2).
図2 本多式切れ味試験機
この他にも特に包丁などで切れ味に関する研究は多いが,興味深いのは大妻女子大学の岡村らの研究である.これは小さな角柱状の二色の粘土を交互に積み上げ,断面を市松模様状などにした被切断物を切断するもので,切断面に露出している元々は正方形だった粘土の,形状の変形の具合により切れ味を評価するものである.
図3 岡村らの実験
岡村らはこの実験により,刺身を切断する際に,切断面の細胞が破壊されていない状態の方が味は良くなり,刺身包丁はその目的に合致した道具であることを実証した3).
これらの一枚刃の刃物に関する研究と比較すると,構造が複雑な,鋏に関する研究は数が少ないが,岐阜県の工業センタの竹腰が精力的な活動を行い多くの研究成果を残している4).
図4 使用している実験装置
2.鋏の切れ味試験機
現在われわれが使用している実験装置の外観を図4に示す.本装置は,はさみをクランプするエアシリンダ,回転させるモータ,押し上げ荷重を測定するロードセル,回転角を測定するロータリエンコーダからなる.ロードセルで測定された荷重は,ひずみアンプを通して記録計に送られ記録される.記録されたデータは,パソコンにて解析することが出来る.
この装置で測定するのは、基本的に開閉時に刃を押し上げるためにかかる力と、その瞬間の鋏の開いている角度である。つまり、刃元、刃中、刃先までの力の大きさの変化がリアルタイムで測定できる。
図5 測定例
図5に測定の一例を示す。また別途、動作時の動画1も参照頂きたい.
二つの線の下側の曲線が、刃を押し上げるための力の推移になる。グラフ上では単位はVとなっているが、今回の装置では1V=1Nなので、力は、0.1N→0.6Nへ、0.5N増加したことになる.
また、上側の角張ったグラフが、ロータリエンコーダの出力になる。ロータリエンコーダは軸の回転に伴って、出力される電圧が上下する仕組みのセンサで、つまり出力値が上下するごとに一定の角度、鋏が開閉していることを示しており、この変化の回数をカウントすることで、角度を知ることが出来る。
図6 開閉荷重のばらつき
同じ型番の異なる鋏で開閉を繰り返すと,図6のように鋏によって荷重にばらつきが生じる(図6は横軸を開き角で整理しているので,時間の進行が逆になっているので注意).
2020年秋の第71回塑性加工連合講演会で報告したのは,このばらつきが小さい方が,鋏の噛み合わせの再現性が高いと判断できるという内容である。このように、本試験機を用いることで鋏の品質を定量的に把握することが出来る.
また本装置を使用すれば,被切断物を切断する瞬間の切断荷重の大きさを把握することも可能である。図7は過去に行った実験のデータであるが、様々な切断条件における鋏の切れ味を定量的に評価することが可能である.
図7 切断の瞬間の荷重変化
また,切断の状況を高速度カメラで撮影することで,切断時の毛髪の挙動などに関しても研究の広げることが出来る.動画2をご参照頂きたい。
3.装置設計上の留意点
装置を設計する上で留意した点をいくつか挙げる.
はじめに,装置全体の剛性を充分に確保すること.今回の装置においては,本体に10mmの鉄板を使用し,またそれぞれを溶接にて接合した.これは切断時に発生する負荷の影響を避けると同時に,装置を設置した場所の不要な振動の影響を避けるためでもある.測定荷重は実際に何かを切断した場合でも,数Nと考えられるが,同様に鋏を押し上げるアーム部についても充分な剛性を与えることが望ましいと思われる.
次に,モータ周りであるが,まず回転速度については,通常ユーザが鋏を開閉する速度範囲をカバーすることが肝要である.また,鋏の開閉は大きくて90deg程度であるため,切断時のトルクを確保するために高トルクのモータを選定する必要があると考える.
参考文献
1) 青山:工業雑誌,53-685(1925),300.
2) 本多ほか:金属の研究,10-3 (1926),67.
3) 岡村ほか:家政学雑誌,28-2 (1977),115.
4) 竹腰ほか:精密工学会誌,70-10(2004),1322.